味を色で表現することはできるのか。

「伝統と革新の”日本酒の色”」

Archive

私が思う、今の「日本の色」 vol.004

中村優

台所研究家、テイストハンター、輸入業
タイ・バンコク在住

中村優

台所研究家、テイストハンター、輸入業
タイ・バンコク在住

世界を旅して、世界中の人に触れ「料理は言語を超える」と実感した、台所研究家の中村優さん。世界各地で出会った人から料理を学び、それを伝えるために編集も学び、さらにはその素晴らしい食材も届けたいとオリジナルのビジネスを展開。現在は、タイを拠点に食材の輸出業を行っています。”食”を中心にした多彩な活動の礎になっているのは、まさに人との出会い。美味しいモノが大好き、美味しいモノを作る人が大好きな彼女が色について語ってくれました。

世界を旅して、自分の好きなものに行き着いた

食のレシピはもちろん人生のレシピも収集する中村さんのお仕事とは?

 世界や日本の旅を続けてきて、数え切れないくらいたくさんの人と出会ってきましたが、昔からおばあちゃんのシワがとっても好きで、どんな人生を送ったらこんな素敵なシワができるんだろう、という好奇心から80歳以上のおばあちゃんのお話を聞くようになりました。彼女たちは戦争や大きな災害を経験していて、生き抜く力や知恵をもっていてクリエイティブなんですよね。お話を聞く度にすごく新鮮な気持ちになるんです。なかでも彼女たちの人生を表しているのが料理。だから料理を教えてもらいながら話を聞いていたんですが、そのうちにローカルカルチャーやその土地の家庭料理や伝統食を知るにはおばあちゃんたちのレシピを学ぶことなんだと気づいたんです。これまでに100人以上のおばあちゃんハントしましたね(笑)。動画でも配信していますが、その集めたレシピが昨年『ばあちゃんの幸せレシピ』という本になりました。

現在、タイではどんなビジネスをされているのですか?

 おばあちゃんのレシピを追いかけるのとともに、日本のクラフト酒やオーストリアの自然派ワインをタイに、タイのオーガニックのココナッツシュガーを日本やヨーロッパに輸出する事業をしています。結婚を機にタイに移住したのですがなかなか美味しい日本酒に出会えないので、だったら自分で飲めるようにしよう!と思い、ビジネスとしてスタートさせました。美味しいものを食べたり飲んだりするのが大好きなもので(笑)。少しずつ日本酒の需要は高まってきてはいますが、アルコール度数がすごく高いというイメージがあるのか、タイ人やタイに住む外国人が家で楽しむカルチャーはまだまだなので、絶賛開拓中です。


伝統ある”日本酒”が今、面白い

中村さんが考える、日本のいろとは?

 インポート業を始めて、タイ人にも好んでもらえる美味しい日本酒を求めて自分の足で酒蔵を訪れるようになり、すごく面白い産業の一つだということを感じています。300年前、江戸時代から続いている酒蔵も、代変わりして私と同じ年代の方々が蔵元になり、伝統を守るのはもちろん、さらに発展させるために積極的に海外に進出されてるんですよね。これまでの日本酒のイメージにあるクリアでサラッとしたものだけでなく、にごり酒や古酒に挑戦されていたり、とにかくチャレンジしているんです。伝統と革新ですよね。日本酒って、一見どれも水のようで大差がないのに、飲んだら味が全く違う、本当に興味深いです。これまでレシピの収集をしたり、海外の食にもたくさん触れてきて、「味を色で表現するとどうなるんだろう」とずっと考えていたところだったんです。だから、私の回答は”日本酒の色”にしたいと思います。日本酒を色として考えたことはあまりないですよね!

具体的にどんな色でしょうか。

 イメージとしては透明(クリア)で、黄色っぽいような。今回日本に帰ってきて、日本は水の国であるということも改めて感じたんですよね。田舎に行けば山水とか地下水などすぐ近くに美味しい水があって、水とともに暮らしててきた国だよなと。日本酒も水が重要で、それに土地の歴史や酒蔵の伝統が詰まっている。だから日本酒はある意味日本を代表する伝統文化だと思うんです。そして今、酒蔵の方々の努力もあって変化をしながらも世界に認知されるようになり、ちゃんと発展し続けているんですよね。
 日本酒の色って見る人によって、見る角度によってもぜんぜん違うんですけど、透明な中に黄色だったり、白だったり、広がってるんですよね。私がイメージしたのはちょっと黄味がある色なので、きっと熟成していますね(笑)

中村さんは常にローカルカルチャーを教えてくれるのは、おばあちゃんやその土地に生きている人たちだとおっしゃっていますが、日本を離れタイで暮らし、どのように日本を見ていますか。

 今の日本は過渡期にきているように見えますね。経済も文化も、本当にいろいろなことが。私が今暮らしているタイは平均年齢も若いですし、同じ年代の人に会ってもエネルギーに満ちてるんですよね。自分たちの国の未来を信じているというか、ポジティブな思いが行動の原動力になっていると思います。アジアの中で先陣を切って経済が発展し、バブルが弾けたと言えども豊かになった日本には、今はそういうパワーが感じられないですよね。だから帰国する度に、日本人はこれからどういう風に生きていくべきなのか、特に若い子たちは考え方を変えていかなければいけない大切な時期なんじゃないかと思います。

守っていくべき日本の魅力とは。

 日本が培ってきた知恵やサービス、日々の丁寧な暮らしは魅力的なものだし、強みだと思います。おばあちゃんのレシピもそうですが、こういうものってとても地味なので見過ごされやすいもの。日本の野菜は白や緑、茶色で、さらに醤油を使うので写真に撮っても全部茶色だったり、まったくインスタジェニックじゃないですよね(笑)。でも日本食の下拵えや出汁や日本酒もそうですが、先人たちの知恵の宝庫なんですよね、そういうものを残していく、守っていくのにどういうことができるかなと常に考えています。富山に行った時に、炊いた山菜をカンピョウで巻いている郷土食あって、色は地味だけど、その様がすごく綺麗で感動しました。これって日本人じゃないとできないんじゃないかな。鮮やかさとか華やかさという色を超える美しさというか、日本の質素で地味なものの奥にある美しさに日本人も世界の人も気づいて欲しいですよね。それはおばあちゃんの魅力と一緒かもしれません(笑)

中村さんにとっての日本の色

「伝統と革新の”日本酒の色”」

NOCS 品番 : 7.5Y−2−1.0

Profile Yu Nakamura

1986年岐阜県生まれ。大学時代から30ケ国以上を旅する中で、国や世代を越え食の重要さを実感。食を通しての異文化交流実現を目指す『The Best Smile from World Kitchen』プロジェクトを立ち上げ、各国の家庭料理を学ぶ。大学卒業後、編集プロダクション、レストランにて編集と料理を学びぶ、その頃から、世界中のおばあちゃんのレシピ収集も開始。15年に、食のプロジェクト『40creations』をつくり、企業の広報や新規事業立ち上げ、レシピ開発にも携わる。16年にタイのバンコクに拠点を移し、タイ人の仲間たちと立ち上げたお酒やワインの輸入販売『TASTE HUNTERS』、そして『ココナッツナカムラ』というオーガニックココナッツシュガーの農家さんと共同の商品開発プロジェクトなどの活動に奔走している。著書に『ばあちゃんの幸せレシピ』がある。

http://40creations.com/

Other Archive

二十五絃筝者、シンガーソングライター

中川果林

二十五本の絃で音色を奏でる、二十五絃筝を巧みに操る中川果林さん。音楽一家に育ったものの、音楽がどうしても好きになれなかった彼女が出会い、自分の表現媒体として選んだのがお琴、そして唄でした。古典的なイメージをもつこの楽器を片手に世界に飛び出し、たくさんの人と交流を重ねて見えてきた”自分”とルーツである”日本”。彼女が音楽を通して、日本のいろについて語ってくれました。

この記事を読む

一覧に戻る