今の日本に必要な色

「美しく静かに滾る炎、緋色」

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私が思う、今の「日本の色」 vol.003

藤間貴雅

日本舞踊家

藤間貴雅

日本舞踊家

日本舞踊家であり、映画や演劇、テレビドラマの所作指導などを行い、伝統芸能を後世に繋げる藤間貴雅さん。伝統に縛られることなく、2013年からはハワイを皮切りに海外公演を積極的に開催し、日本文化の振興に貢献しています。日本の伝統文化に世界中の注目が集まる昨今、伝統と革新の中で次の時代を模索する藤間さんが考える、今の「日本の色」とは

日本文化が愛される理由

日本舞踊の公演を海外で精力的にされていますが、そのきっかけは?

 ある日、妻の知人でNYに暮らす90歳くらいになる方が、戦後の海外がまだまだ遠い時代に何ももたずに日本を飛び出して、アメリカに向かったというお話をうかがったんです。その時代にそんな挑戦をされたと聞いて、なぜか「今しかない!」と思ったんです。何か自分の覚悟ができたような気がして、2013年から海外に目を向けるようになり、公演を行っています。私は日本舞踊家で、日本で伝統を守ることも大切だけれど、海外の人にも知ってもらいたいという思いが強かったんですね。費用面でも大変ですし、海外公演ではハプニングは付き物で自分をためされてばかりですが(笑)、日本人としての使命が自分を突き動かすしたのでしょう。
 2014年からバルト3国での公演を行っていますが、日本人とバルトの人たちは国民性として親和性があるのか、日本文化をもっと知りたいという彼らの希求度はかなり高まっているのを肌で感じます。それにしても、彼らのエネルギーは本当にすごいんですよ! リトアニアでは「日本文化フェスティバル」が開催されたり、驚くほど完成度の高い日本庭園が数多くあったり、もしかしたら日本人の私たちより彼らの方が日本文化を知っているかもしれません。

日本の伝統文化は今、どのような局面にあると思いますか。

 日本への海外からの観光客も増えていますし、海外公演を行うと、皆さんとても積極的に関心を持ってくれていると思います。そこですごく感じるのは、日本人は自国文化に対して興味が薄れてきいるのではないかということ。日本舞踊のちょっとした動きを出来る人はどれくらいいるでしょうか。踊りのお所作はおろか、お着物はもちろん浴衣だって自分で着ることも畳むこともできない方が増えてきました。そしてバルト3国の皆さんが日本に興味を持ってくれていることも、あまり報道もされません。日本人が誇れるこの文化をまず自分たちがちゃんと知ることが大切なのではないでしょうか。それと、なぜ海外の人がこんなにも日本の文化を好きになってくれるのか、ということをもっとリサーチしたり、考えたりする必要があるんじゃないかと。伝統文化の世界にずっと身を置いている私自身もその答えがまだわからず、日本文化、伝統文化の魅力については考え続けています。


豊かな文化を後世に繋げるために

藤間さんの考える今の「日本の色」とは。

 こんなにバリエーション豊かな色彩感覚を持っているのは、世界でも日本くらいなのではないでしょうか。海外公演に行った時には美術館や博物館に必ず行くようにしていて、その国の美術やデザインにも触れるようにしていますが、やっぱり日本の美術のレベルはやっぱり高い!  素晴らしいものをたくさん持っているこの国ですが、日本人の私たちには、海外の人に比べたらエネルギーやパッションといったパワーが足りないと思います。それもあって、ある助成機関のコンペティションに提出した公演のタイトルを「フレイム」(炎)にしたことがありました。いまの日本に足りないのは炎なのではないかと。ただ単に豪快に燃えたぎっているものではなく、そこは日本ならではの芯があって、静かにしっかり燃えている様です。私たちの伝統芸能では女房装束の一つに緋色の袴があるのですが、凛とした強さを兼ね備えた美しい佇まいになるのですが、その色を想像しました。今の私たちに必要なのは、炎であり、この緋色なのではないでしょうか。赤は太陽を表す色で、赤ちゃんのように温かみのある色ですが、赤色ではなく似て非なる緋色だと思います。平安時代からある伝統色ではありますが、いまの日本で改めて必要とされている色ですね。

自分のことや自分の国を改めて考えるための一歩。

 かれこれ10年くらいになりますが、「自分は何が好きなんだろうか」と思考しています。この世に生を受け、芸能をやってきたのですが、何が好きで嫌いか、ということが自分でも認識できているようでできていなかったんですね。絵画でも色やタイプでどんなものが好きか自分に向き合ってみました。いま自分が好きな作品から逆算してみたり、絵画の系譜を辿ってみたところ、大和絵というジャンルに行き着いたんです。そして、先日たまたま訪れた場所で偶然にも目に入った作品集で衝撃的な出会いがあったんです。54の源氏物語の絵を1枚ずつ描いたその本に載っていた、友禅作家の第一人者である河原崎奨堂(かわらざき・しょうどう)が描いた作品で、自分が探し求めていたものはこれだ!と釘付けになりました。彼は明治〜昭和の作家ではありますが、室町幕府の御用絵師でもあった狩野派の作風ももち、水墨画と大和絵がミックスしたような作品で、私の好みを凝縮した1枚だったのです。すぐにその作品集の版元に行き、購入し、その絵は公演のパンフレットにも使わせていただきました(笑)。何が好きで、何が嫌いか、というこの選別の作業をし続けたことでようやく自分の好きなものの原点に巡り会えた気がしますね。その原点が基点となり繋がり、広がっていく。おそらく誰にでも無意識に魅かれてしまうものはあると思うのですが、それを自分で認識すること、そしてなぜそれが好きなのか、ということに向き合うことが大切であると感じています。

これからの日本を担う人たちに伝えたいこと。

 今年は明治150周年。鎖国が終わり、西洋文化を受け入れて発展、進化してきたはずの150年ですが、文化の側面で言うと、実はそんなに進歩も変化もしていないのではないかという思いがしてならないんです。それは伝統芸能もですが色の分野もあらゆるジャンルのものが昔からの既存のシステムのままなのかもしれないと。だから私たちはまず、自国の文化や歴史に向き合い、そして今日本で何が起こっているのか、世界で何が起こっているのかとか、海外の人は日本の何を知りたいのか、彼らに何を伝えるのか、そういうことに思いを巡らせることから始めてみるといいのかもしれません。
 ベラルーシにほど近いリトアニアのある町で白粉から獅子の隈取りまでやっていくという、芸能における化粧のワークショップを行ったんです。その準備中に、ある一人のおばあちゃんが私の化粧道具の上に花を一輪置いていってくれたんですが、なんかものすごく感動したんですよね。これは、言葉のないコミュニケーション。人間と人間のコミュニケーションの回復というか、文化を通したコミュニケーションの再認識だなと感じたんです。細やかなことかもしれないですが、人生を豊かにしてくれるそんな出会いや感動を世界に出て、自分の肌で経験して欲しいですね。

藤間さんにとっての日本の色

「美しく静かに滾る炎、緋色」

NOCS 品番 : 5R−8−3.0

Profile Takamasa Fujima

日本大学芸術学部演劇学科教養(劇作)コース卒業。日本舞踊家藤間章作氏に師事。2002年から商業演劇の仕事に携わり、故蜷川幸雄氏の演出する芝居(02年〜16年)や他に宝塚歌劇、NHK大河ドラマ、朝ドラの振付所作指導などを担当。また、自ら「貴雅の会」を主催。道化をテーマに、歴史上の魅力ある人物を浮かび上がらせ、新しい日本舞踊の作品を模索している。16年から国内外問わず日本文化の素晴らしさをアプローチしていく特定非営利活動法人ハーモニーオブジャパンを設立。各国大使館招聘や国際交流基金支援公演などでハワイ、ロシア、フランス、リトアニアなどを訪問。17年5月には、文化庁国際芸術交流支援事業の支援でリトアニア日本文化公演を実施。18年10月、国際交流基金、アーツカウンシル東京助成のハワイ日系移民150周年記念事業「GANNENMONO」にて伝統芸能公演を実施。

http://www.takamasafujima.com/index.html

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台所研究家、テイストハンター、輸入業

中村優

世界を旅して、世界中の人に触れ「料理は言語を超える」と実感した、台所研究家の中村優さん。世界各地で出会った人から料理を学び、それを伝えるために編集も学び、さらにはその素晴らしい食材も届けたいとオリジナルのビジネスを展開。現在は、タイを拠点に食材の輸出業を行っています。”食”を中心にした多彩な活動の礎になっているのは、まさに人との出会い。美味しいモノが大好き、美味しいモノを作る人が大好きな彼女が色について語ってくれました。

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