トレンドから定着していく

ファッションと深くかかわる、3色

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私が思う、今の「日本の色」 vol.008

山内誠

カラーアナリスト/color analyst

山内誠

カラーアナリスト/color analyst

ファッション業界の最先端に身を置き、トレンドをキャッチし、”ファッション”という視点から色にかかわり続けている山内誠さん。移り変わりが激しいこの日本のファッション業界で、トレンドカラーとして注目され、その後今では私たちのライフスタイルに欠かせない「日本の色」についてお話しくださいました。

色が流行を作る? 流行が色を作る?

山内さんはこれまでどのように“色”にかかわってきたのでしょうか。

 私はまず美術大学で色彩心理に触れてから繊維メーカーに入社し、そこのファッションセクションでいわゆるファッショントレンドや流行色のサンプルを作ったりしていました。当時は繊維メーカーに業界支配力があったのでアパレルメーカーやデパート、GMS(量販店)などに情報を提供することがビジネスとして成立していたんです。

 その後、情報をめぐる環境が一変して、繊維メーカー各社のファッションセクションが消えていきました。そこで、私は2003年から日本ファッション協会に出向し(※現在は繊維メーカーを退職)、研究会の開催や運営、「スタイルアリーナ」というストリートファッションサイトや映画顕彰事業など、さまざまなことをしてきました。そのような中で、中国や韓国と一緒に”色”について研究しようということになり、3国で色彩の調査や相互イベントなどを行いました。併せて日本のカラービジネスを代表する団体、企業に声をかけてカラービジネスネットワークを立ち上げ、事務局として携わってきました。

流行色とファッションの関係性とは?

グローバルなカラートレンドを選定する国際流行色委員会(インターカラー)ができたのが1963年。ファッションにおいて世界共通の流行色を作っていこう、ということで発足しました。ところが共通の流行色といっても、各国の色の認識が違っていてその国毎の色があるんです。赤と言っても、イギリスの赤は深みがある、イタリアは明るい赤、というように。ですので、インターカラーでは、全体で30以上の色を決めるのですがこれは発表せずに、共通の考え方を尊重して、各国が選定色を持ち帰って、自国の色に置き換えて具体的な色を出します。

 このように各国足並みをそろえてやっていかないと、ファッション産業が活性化しないんですね。ファッションはある種大きな流れを作らなければならないのですが、このインターカラーは家電やインテリアなどの生活の中の色にも影響しています。

ある意味、インターカラーから流行が生まれているということでしょうか。

 そうでもあり、そうでもないですね。ヨーロッパのハイブランドはブランドのイメージが優先されますが、大衆向けブランドのように大量生産されるものはインターカラーを採用することが多いでしょう。インターカラーはシーズンの2年前に発表され、1年半前に素材の展示会が開催されます。フランスでプルミエール・ビジョンという生地の展示会があって、多くのアパレルメーカーはそこに行って素材を見なければならないのですが、そこがプロモートする色とインターカラーが似ているんです。なぜかというと関わっている人や組織が重なっていたり、インターカラーの選定色を参考にしている場合が多いんですね。

 その一方で、ブランドによっては、隣の家がグリーンならうちは変えておこうという考えであえてトレンドカラーに逆らうところもあるんです。とはいえ、そのシーズンの百貨店の売り場をみるとインターカラーに影響されて似たような色の洋服が並ぶことが多いですね。

日本においてもインターカラーの影響は大きいですか?

大きいと思います。ただ日本の場合にはインターカラーの影響が予定よりも早く出る場合が多いです。ヨーロッパはファッションが産業として確立しているので、2年後と設定されたものは、そのスケジュールでしっかり活用していくんです。しかし日本では、来年出る予定の色も今シーズンで使っちゃおうよ!と早く使ってしまうことがあります。だから流行り廃りがすごくあるのではないかと思っています。

 日本は江戸時代からみてもブランド好きということがうかがえます。団十郎茶を着るとか、○○のキセルを買うとか、庶民でもファッションとブランドを楽しんでいたんですね。そういう背景もあって、日本は世界で一番のファッション大国だと思っています。


日本ならではのトレンド

山内さんが考える今の「日本の色」とは

 3色あります。
1色めは「ピンク」です。桜を彷彿とさせる薄いピンクです。欧米ではピンクと言うとローズなので、色は違ってきますが。”かわいいカラー”という感じで、ロリータファッションに象徴されるように、原宿でよく目にする色でもあります。1999年にトヨタのヴィッツが当時は乗用車では珍しい、ピンクカラーを出したんです。このピンクのヴィッツ以来、ピンクが身の回りに定着したように思います。その後の女子大生へのアンケートで、93%の人がピンクが好き、という結果が出ています。幸せを感じる色としても日本人はピンクを意識しているようです。幸せの黄色いハンカチならぬ、ピンクのハンカチですね。薄いピンクだと日常にも取り入れやすいので親しみがあるのでしょう。

 2色めは「黒」です。これは川久保玲さんと山本耀司さんが1980年代初頭にパリコレクションで発表し、その後、黒のDCブームにつながり、そして今でもその黒がファッションのベーシックカラーとして定着しています。(一財)日本色彩研究所が、銀座で50年以上服装色についての定点調査を続けていますが、春夏秋冬関係なく黒が突出していて、それも83年頃から現在に至るまで続いています。現代の若手のデザイナーも黒を多く使っていますし、これほど黒をファッションとして着る国は日本だけでしょう。

 3色めは「緑」です。環境に対しての意識が高くなっていた2008年、400人の方に、エコロジーに相応しい緑を選んでもらったんですね。その時、グリーンのキーワードとしてダントツで高かったのが「自然」。韓国での調査では、キーワードは「平和」だったんです。色彩学では緑は平和のシンボルカラーになっているので、韓国でもそれが浸透しているようですね。
たまたま協会を訪れたアメリカ人に聞いても答えは「平和」でしたので、日本人が緑を植物や自然と結びつけるのは、世界的に見ても少し特殊なようですね。

色の捉え方の違いとは?

 日本人は色を素材と結びつけやすく、欧米人は、色を概念として捉える傾向にあるんですよね。そもそも色というものに対しての認識が違うんです。例えば、カラーハーモニー(色彩調和)と日本では言いますが、そもそも語源はハルモニアーという女神で、お父さんはアレースで戦いの神、お母さんが美の神のアプロディーテーの対照的な二人の子どもであって、「調和」は反対色の混じり合いという意味合いとも言われています。

 シャガールが「すべての色の隣人は友人で、反対側は恋人」という言葉を残しています。それだけ反対色に対する指向が強いものなんだと。しかし、日本の場合は、緑の水田が山の端に行くと霞んでいく、その一体感や近い色同士の色の組み合わせの配色をハーモニーというんですよね。日本人は自然とか風景とか、実体のあるものから色を捉えていて、ヨーロッパは概念そのものとして考えている気がしますね。だから日本では、素材色についてのこだわりが強い代わりに、色彩学や配色理論が発達せず、素材色から離れてペンキを塗ろうものならメチャクチャな結果になりやすいと思います。

これからの日本のファッションは?

 協会サイトで紹介している「スタイル アリーナ」では5つのストリート(原宿、渋谷、表参道、代官山、銀座)を定点観測しています。これまでは街ごとにファッションのスタイルがあったのですが、それがどんどん近づいているんです。原宿でも尖った人がいなくなっていて、どこの街も同じようなファッションになってきてるんですね。

 それに対して、もう一つ違うストリートといっていい場が出てきていて、それがインスタグラムなんです。人に見せるという効率から言っても、街を歩くより、家でインスタにあげたほうが皆が見てくれて反応をしてくれる訳です。インスタは新しい自分、なりたい自分になれる、ファッションの有効手段となっています。ファッションのあり方はこれからどんどん、自分の手の中にあるスマホの中に取り込まれていくのではないでしょうか。

山内さんにとっての日本の色

ファッションと深くかかわる、3色

NOCS 品番 : 5RP−6−0(左)
NOCS 品番 : N1.5(左から2番目)
NOCS 品番 : 10GY−9−0(左から3番目)

Profile Makoto Yamauchi

一般財団法人日本ファッション協会 企画事業部シニアアドバイザー、カラービジネスネットワーク事務局長。
武蔵野美術大学基礎デザイン学科卒業後、東レ㈱に入社し、繊維事業本部のファッションセクションにて、流行色の選定・発行、トレンド誌の編集・発行、色彩&販売企画業務などに従事。2003年より(財)日本ファッション協会出向。企画事業他を担当。08〜10年度、同協会流行色情報センター所長。2005~17年金沢美術工芸大学大学院および2013~16年武蔵野美術大学非常勤講師。元日本テキスタイルデザイン協会理事。

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