合同会社ヘアカラーマスター検定協会代表。ハリウッド大学院大学ビューティビジネス研究科准教授。大学院修了後、大手外資系化粧品メーカーにて、ヘアカラー・ヘアケア製品の研究開発やマーケティングに従事する。2010年に独立し、ヘアカラーリングに関する教育・研究・教材制作や、国内外の化粧品会社にてヘアケア・ヘアカラーの研究開発コンサルティングを行う。現在は大学院博士課程に在学し、ヘアメイクアップの対人認知についての研究も行っている。
合同会社ヘアカラーマスター検定協会代表
合同会社ヘアカラーマスター検定協会代表
外資系化粧品メーカーに務めたのをきっかけに、ヘアカラーや色彩学との関係が始まった中川登紀子さん。ヘアカラーと言えば白髪染めだけだった時代は終わり、近年ではヘアカラーは自己表現のツールとなり、ファッションに合わせて楽しむ時代となりました。美意識の変化とともにアップデートされる、今の「日本の色」について中川さんにお話をお聞きしました。
大学院では化学を専攻していて、就職先となると製薬メーカーか化粧品メーカー、化学メーカーかというだいたい3択でした。当時は就職氷河期だったので、さらに選択肢が少なくなっていましたが、化粧品メーカーに関心があったので試験を受けて、日本リーバ(現ユニリーバ・ジャパン)に内定をいただきました。その時点ではヘアがやりたい、といったこだわりはなかったのですが、ちょうどダヴ モイスチャーケアシャンプーの発売を控えているタイミングで、そのチームに配属されたことがヘアとのかかわりのスタートですね。
就職したのは2001年でしたが、1990年代中盤からのアムロちゃん(安室奈美恵さん)ブームの影響で、ヘアケアの研究とともにヘアカラーについてのリサーチも並行して行っていました。そこで、ヘアカラーに興味が湧き、面白いなと感じていたので色彩学の勉強も始めていました。2005年までその会社にいて、次にご縁をいただいたのがヘンケルジャパンで、そこからヘアカラーの開発に携わることになりました。自分で選んで、というよりも巡りあわせですね。
白髪染めについての記述は平安時代の医学全集「医心方」まで遡りますが、明治時代になって商品化されました。当時の白髪染めはあくまでも黒い髪の白髪を黒くするもので、「るり羽」「初から壽」「二羽からす(ふたばからす)」「三羽からす(さんばからす)」「千代濡れ羽(ちよぬれば)」といわゆる「烏の濡れ羽色(からすのぬればいろ)」を想起されるような商品名のもので、黒一色でした。その後、1950年代後半に茶髪のカリプソメイクが出てきて、1957年頃に白髪染めのバリエーションが黒から黒褐色など少し広がりました。その後、黒色、黒褐色、栗色に増えて、さらに明度の段階を表す「4」「5」「6」「7」といった数字になり、使い勝手も改良されていき、粉末状から液状のヘアカラーになっていきます。1970年代くらいに液状からチューブになって部分染めもできるようになりました。これが発売されたときには、よりバリエーションが広がって明度の数字が増えたり、1980年代から“早染め”になって、30分おかなければならかったものが15分~20分で染められるようになったようです。あとは乳液状、ムース状、泡状など塗りやすさを工夫した様々な剤型の商品が出て、明度という縦方向のバリエーションから色味の横方向のバリエーションも増えてきました。
“おしゃれ染め”といわれる商品は、遅くとも1967年頃には発売されており、1990年前後にはヘアマニキュアがヒットし、その後1990年代にファッションカラーが登場しました。それまではメインは白髪染めの商品で、髪を染める、鮮やかに艶感を出すというのは多少増えてきていたのですが、やはり決定的なポイントは安室奈美恵さんの登場だと思っています。2000年代前半には白髪染めにもファッション的な要素が加わり、男性の“おしゃれ染め”もでてきました。
そうですね。安室奈美恵さんが出てくるまではずっと黒髪の時代で、1960年代中盤にビートルズなどの海外ミュージシャンが流行り、欧米の文化が入ってきた影響でヘアカラーする人が増えたこともありますが、アムロちゃんをきっかけに、脱色する文化が広まったんです。ガングロで髪は明るいスタイルですね。そこから、明るく染める人もいるし、暗く染める人もいる、ヘアカラーが自己表現の手段となったような気がします。そしてアムロちゃん世代が40代になった今、ヘアカラーが完全に市民権を得ました。
最近では、グラデーション(毛先だけ色を変える)や内側と外側のカラーを変えるなど、美容師さんから提案されるデザインも増えていて、それで色との組み合わせもあって、本当に多様化していますよね。レディー・ガガも訪問する国によってヘアカラーを変えたり、有名人の影響もとてもあると思います。カラートリートメントのような自宅でもカラーを楽しめる手軽な商品もたくさん発売されているので、女性が社会に進出し始めて、美容室行くのも大変という人や気軽にヘアカラーをチェンジしたい人にとって、便利な商品がたくさんあります。これまで、茶髪や明るい髪の色は、不良だったりやんちゃな、少しネガティブなイメージを持たれがちでしたが、今はファッションだったり、セルフプロデュースの手段になって、日常に取り入れられています。多様化が浸透し、美意識もさまざまになったとは言え、体形や肌の色に対する固定観念はまだまだ拭えないことがありますが、ヘアカラーに関して言えば、ここ数十年で価値観、美意識の変化が大きく起こっているんですよね。
ヘンケルジャパンに転職したときに、自分がヘアカラーの実験台になることがあって、鮮やかな赤い髪の毛になったことがあったんです。美容師さんもおそるおそるやっていたんですが(笑)、その後友人たちに、今までのヘアカラーで一番きれい!似合う!と言われたんですが、髪の色が違うだけで、他人からの見方も違う、そしてそれで自分も前向きになれた気がしたんです。自分が纏う色で気持ちまでも変わることを実感しましたね。
近年の日本人はライフスタイルの変化でメラニン色素が減り、肌色が明るくなっていると資生堂の研究で発表されていました。ということは、髪色も地色が明るくなっているということでもあります。濡れ羽色、をとも思いましたが(笑)、そういった状況も踏まえてあえて選ぶのであれば、今の日本人に似合う赤みのあるダークブラウン系です。最近はアッシュ系と言われる灰色がかった寒色系が流行ではあるのですが、ただ日本人に似合いやすい色は赤みがあるほうがいいかなと思っています。肌になじみやすい色で、エレガントに見えて、大和なでしこ的なイメージでしょうか。流行とは対極かもしれませんが、あえて提案したいですね。
掲載日:2020年8月31日(月)
自己表現としてのヘアカラー
NOCS 品番 | : 1.25R 2-14 |
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合同会社ヘアカラーマスター検定協会代表。ハリウッド大学院大学ビューティビジネス研究科准教授。大学院修了後、大手外資系化粧品メーカーにて、ヘアカラー・ヘアケア製品の研究開発やマーケティングに従事する。2010年に独立し、ヘアカラーリングに関する教育・研究・教材制作や、国内外の化粧品会社にてヘアケア・ヘアカラーの研究開発コンサルティングを行う。現在は大学院博士課程に在学し、ヘアメイクアップの対人認知についての研究も行っている。
ファッション業界の最先端に身を置き、トレンドをキャッチし、”ファッション”という視点から色にかかわり続けている山内誠さん。移り変わりが激しいこの日本のファッション業界で、トレンドカラーとして注目され、その後今では私たちのライフスタイルに欠かせない「日本の色」についてお話しくださいました。
外資系化粧品メーカーに務めたのをきっかけに、ヘアカラーや色彩学との関係が始まった中川登紀子さん。ヘアカラーと言えば白髪染めだけだった時代は終わり、近年ではヘアカラーは自己表現のツールとなり、ファッションに合わせて楽しむ時代となりました。美意識の変化とともにアップデートされる、今の「日本の色」について中川さんにお話をお聞きしました。